Web・AI開発

問い合わせ対応をAIで効率化。社内ナレッジを活用したAIチャットボット導入事例

2026年7月2日読了時間: 15分
問い合わせ対応をAIで効率化。社内ナレッジを活用したAIチャットボット導入事例
目次

営業時間は何時までですか?

この手続きに必要な書類は何ですか?

料金プランの違いを教えてください

毎日届く問い合わせの多くが、実は同じ質問の繰り返しだった。そんな経験はありませんか?

1件ずつの対応は数分でも、積み重なれば月に数十時間。

しかも対応できるのは業務を熟知した特定のスタッフだけ。

「あの人がいないと答えられない」という属人化が進み、ベテランスタッフは本来やるべき業務に集中できない。

これは、多くの中小企業に共通する課題です。

本記事では、この課題を社内ナレッジを活用したAIチャットボットで解決した企業の導入事例をご紹介します。

マニュアルや過去の問い合わせ履歴といった社内にすでにある資料をAIに読み込ませることで、誰が対応しても同じ品質の回答を、24時間365日返せる仕組みを構築した事例です。

この記事でわかること

  • AIチャットボット導入前に企業が抱えていたリアルな課題
  • 社内資料を活用したFAQボットの具体的な構築ステップ
  • 導入後の成果(対応時間の削減率・工数削減の実数)
  • 導入を成功させるためのポイントと、費用感・導入期間の目安

1. 導入前の課題

1.1 企業プロフィール

今回ご紹介するのは、福岡県内で許認可申請や相続手続きを扱う行政書士事務所A様(スタッフ数8名)です。

地域密着型の事務所として20年以上の実績があり、既存顧客からの信頼も厚い一方で、近年はWebサイト経由の新規問い合わせが増加。

うれしい悲鳴の裏で、ある課題が深刻化していました。

1.2 月150件の問い合わせ対応

A様の事務所には、電話・メール・Webフォームを合わせて月に約150件の問い合わせが寄せられていました。

建設業許可の申請に必要な書類は?

相続手続きの費用はいくらかかりますか?

初回相談は無料ですか?予約は必要ですか?

といった、回答が定型化できる質問が全体の約7割を占めていたのです。

1件あたりの対応時間は平均5〜10分。

単純計算でも月に15〜20時間が、同じ内容の回答の繰り返しに費やされていました。

これは、報酬を生む本来の申請業務に充てられるはずの時間です。

1.3 対応の属人化

さらに深刻だったのが、対応できる人が限られていることでした。

許認可の要件や手続きの流れは案件ごとに細かな違いがあり、正確に答えられるのは所長ともう1名のベテランスタッフのみ。

この2名が外出や打ち合わせで不在の間、問い合わせは「折り返し」となり、対応が翌日にずれ込むことも珍しくありませんでした。

問い合わせへの初動が遅れれば、見込み客はそのまま他の事務所へ流れてしまう。

新規獲得の機会損失が、目に見えない形で積み重なっていたのです。

1.4 教育時間の不足

事務所では若手スタッフの採用も進めていましたが、ここでも問題が。

問い合わせ対応を任せるには幅広い業務知識が必要で、一人前になるまでには時間がかかります。

しかし肝心の教育係であるベテラン2名は、日々の業務と問い合わせ対応に追われ、教育に割く時間そのものが確保できないという悪循環に陥っていました。

このままでは、業務が回らなくなる。

そんな危機感から、A様はAIチャットボットの導入を検討し始めました。

2. AIチャットボットを選んだ理由

2.1 FAQページの限界

実はA様、AIチャットボット導入の前に、いくつかの対策を試みていました。

まず取り組んだのが、WebサイトへのFAQページ設置です。よくある質問を30項目ほどまとめて公開しました。

しかし、結果は期待外れ。問い合わせ件数はほとんど減らなかったのです。

原因を探ると、理由は明快でした。

  • そもそもFAQページまで辿り着いてもらえない。
  • 質問の仕方が人それぞれ。
  • 一問一答では答えきれない。

FAQページは「探せる人」には有効でも、「探さない人・探せない人」には届かない

これがFAQページの限界でした。

2.2 使われないマニュアル

並行して進めていた社内マニュアルの整備も、思うような効果は出ませんでした。

対応手順や回答例をまとめた資料は作ったものの、量が増えるほど「どこに何が書いてあるか」を探す時間が発生。

結局、新人スタッフは検索するよりベテランに口頭で聞く方が早く、マニュアルは存在するのに使われないという、多くの企業でおなじみの状態に陥ってしまいます。

つまりA様の課題の本質は、「情報がないこと」ではなく「情報と人を瞬時につなぐ仕組みがないこと」だったのです。

2.3 「探す」を「聞く」に変える

そこで浮上したのが、生成AIを活用したチャットボットでした。

  • 自然な言葉で質問できる。
    • 「建設の仕事を始めたい」という曖昧な聞き方でも、意図を汲んで建設業許可の案内につなげられる
  • 社内資料がそのまま知識になる。
    • すでに作成済みのマニュアルや過去の問い合わせ履歴を読み込ませれば、それが回答の根拠になる(RAGと呼ばれる仕組み)
  • 24時間365日、即レスできる。
    • ベテランの不在時間や営業時間外でも、一次対応が完結する

「使われないマニュアル」が、AIを介することで「24時間働く相談窓口」に生まれ変わる。

この点が、A様が導入を決めた最大の理由でした。

3. Difyでの構築ステップ

ここからは、実際にA様が行った構築プロセスを4つのステップでご紹介します。

「AI導入」と聞くと大掛かりなプロジェクトを想像されるかもしれませんが、実際の流れは驚くほどシンプルです。

3.1 【STEP1】資料の整理

意外に思われるかもしれませんが、AIチャットボット導入で最も重要なのは、AIの設定ではなく資料の整理です。

AIの回答品質は、読み込ませる資料の品質で決まるからです。

A様ではまず、社内に散らばっていた情報を棚卸ししました。

  • 業務マニュアル(許認可申請の手順書など)
  • 料金表・サービス案内資料
  • 過去1年分のメール問い合わせと回答の履歴
  • 電話でよく聞かれる質問の聞き取りメモ(ベテランスタッフへのヒアリングで作成)

このうち特に価値が高かったのが、過去の問い合わせ履歴です。

実際のお客様の生の言葉遣いと、それに対するベテランの回答がセットになっているため、AIにとって最高の教材になります。

整理の際のポイントは2つです。

  1. 古い情報・重複する情報を削除する。
    • 料金改定前の資料が混ざっていると、AIが古い料金を答えてしまいます
  2. 「質問と回答」の形式に揃える。
    • Q&A形式に整えた資料は、AIが参照しやすく回答精度が上がります

この工程に約2週間。地味な作業ですが、ここでの丁寧さが後の回答品質に直結しました。

3.2 【STEP2】ナレッジベース構築

資料が揃ったら、いよいよDifyでの構築です。

といっても、作業の中心は整理した資料をアップロードすること

PDFやWord、Excelファイルをそのまま登録するだけで、AIが参照できる「ナレッジベース(知識データベース)」が出来上がります。

ここで、この仕組みを支えるRAG(ラグ)について簡単に説明しておきましょう。

  1. ユーザーが質問を入力する
    • (例:「建設業許可に必要な書類は?」)
  2. アプリが社内資料から関連情報を検索する
    • 事前に登録したマニュアルやよくある質問集(ナレッジベース)の中から、質問に関係するページだけを探し出します
  3. 「質問+検索結果」をセットでAI(LLM)に渡す
    • AIは資料を読んでから回答文を作ります
  4. 回答をユーザーに返す

ポイントはステップ2と3です。

AIが「勝手に想像で答える」のではなく、必ず御社の資料を検索し、その内容を根拠に回答を組み立てる

これがRAGの本質です。

イメージとしては「優秀な新人スタッフに、社内資料の詰まった棚を渡す」ようなもの。

だから一般的なChatGPTと違い、事実と異なる回答をしてしまうリスク(ハルシネーション)を大幅に抑えられるのです。

3.3 【STEP3】テストと調整

構築後、すぐに公開はせず、約3週間の社内テスト期間を設けました。

スタッフ全員で「お客様になりきって」質問を投げかけ、回答を検証します。この段階では、必ずいくつかの惜しい回答が見つかります。

  • 質問の意図とズレた資料を参照してしまう → 資料の分類やタイトルを見直す
  • 回答が長すぎて読みにくい → 「3文以内で簡潔に」など指示文を調整する
  • 特定の質問だけ精度が低い → その分野のQ&A資料を追加する

重要なのは、この試行錯誤自体がノーコードで完結すること。

「資料を差し替える」「指示文を書き換える」といった調整は画面操作だけで済むため、エンジニア不在のA様でも、スタッフ自身の手でチューニングを進められました。

テスト終盤には、想定質問リスト100問に対する回答の正答率をチェックし、実用ラインを超えたことを確認してから公開へ進みました。

3.4 【STEP4】本番導入

本番導入は、リスクを抑えるため2段階で行いました。

第1段階:社内向けに公開。

まずは新人スタッフが業務中に使う「社内の相談窓口」として運用開始。お客様対応の前にAIで確認する習慣ができ、ベテランへの口頭質問が目に見えて減りました。この期間に回答精度をさらに磨きます。

第2段階:Webサイトに公開。

社内での安定稼働を確認した後、事務所のWebサイトにチャット窓口として設置。お客様が24時間いつでも質問できる体制が整いました。

社内展開の際に効果的だったのは、「AIの回答を育てる担当」を1名決めたことです。

週に1回、AIの回答ログを見て「答えられなかった質問」を確認し、資料を追加する。この軽い運用ルーチンを回すだけで、ボットは使うほど賢くなっていきます。

3.5 期間と体制

A様のケースの全体像をまとめると、次の通りです。

工程

期間

主な担当

Step1:資料整理

約2週間

事務所スタッフ+支援会社

Step2:ナレッジベース構築

約1週間

支援会社

Step3:テスト・チューニング

約3週間

事務所スタッフ+支援会社

Step4:本番導入・社内展開

約2週間

事務所スタッフ

トータルで約2ヶ月。

事務所側の実働は、資料整理とテストへの協力が中心で、通常業務と並行できる負荷感です。「AIプロジェクト」というと半年〜1年がかりの大仕事を想像されがちですが、既存資料を活用するFAQボットであれば、このスピード感で立ち上げが可能です。

4. 導入の成果

導入から3ヶ月。A様の事務所では、問い合わせ対応の風景が大きく変わりました。まずは全体像を一覧でご覧ください。

▪️Before / After 一覧

項目

Before(導入前)

After(導入3ヶ月後)

有人対応が必要な問い合わせ

月約150件

月約60件(約60%削減)

定型質問への対応時間

月15〜20時間

月5時間以下(約70%削減)

対応可能なスタッフ

ベテラン2名のみ

全スタッフ+AI(24時間対応)

営業時間外の問い合わせ対応

翌営業日に折り返し

AIが即時に一次回答

5. 成功のポイント

A様の事例は順調に見えますが、AIチャットボット導入にはつまずきやすいポイントがいくつかあります。

ここでは、A様の取り組みから見えてきた成功のための3つの原則を整理します。これから導入を検討される方は、ぜひチェックリストとしてお使いください。

5.1 資料整理に注力する

繰り返しになりますが、AIチャットボットの回答品質は、読み込ませる資料の品質で9割決まります。

導入がうまくいかないケースの典型は、「とりあえず手元の資料を全部放り込む」パターンです。

古い料金表と新しい料金表が混在していれば、AIはどちらを答えるべきか判断できません。

矛盾した情報、重複した情報、更新されていない情報。

これらは、そのまま回答のブレとなって表面化します。

逆に言えば、資料さえ整っていれば、AIの構築自体は難しくありません。

導入前の資料整理は地味で面倒な工程ですが、ここへの投資が最も費用対効果の高い工程です。

そしてこの棚卸しは、AIとは関係なく業務マニュアルの品質向上にもつながる一石二鳥の取り組みでもあります。

5.2 スモールスタートで始める

2つ目のつまずきポイントは、最初から100点を目指してしまうことです。

  • 全業務に対応できるAIにしたい!
  • あらゆる質問に完璧に答えさせたい!

この発想で進めると、要件が膨らみ、資料整理も終わらず、いつまでも公開できません。

結果、プロジェクト自体が頓挫してしまいます。

A様が成功したのは、割り切りが明確だったからです。

  • 範囲を絞る:まずは「よくある質問トップ30」に確実に答えられればOK
  • 精度を割り切る:わからない質問は無理に答えず「担当者につなぐ」でOK
  • 段階を踏む:社内利用→Web公開の2段階で、リスクを抑えて展開

特に有効なのが「わからないことは人につなぐ」設計です。

AIが全部答える必要はありません。定型質問の7割をAIが受け、残り3割を人が対応する。

これだけで現場の負担は激減します。

「AI vs 人」ではなく「AIが一次対応、人が二次対応」という役割分担で考えるのが、失敗しない導入の鉄則です。

5.3 運用しながら育てる

3つ目は、公開後の話です。AIチャットボットは家電のような「買って終わり」の道具ではなく、「育てる」ものだと考えてください。

公開直後のボットは、いわば新人です。

想定外の質問も来ますし、答えられないこともあります。大切なのは、そこからの改善サイクルです。

A様では、次の軽い運用ルーチンを回しています。

  1. 週1回、回答ログを確認する(担当者1名・所要30分程度)
  2. 「答えられなかった質問」をピックアップする
  3. その質問に対応する資料を追加する

たったこれだけです。

しかしこのサイクルを3ヶ月回すだけで、回答できる範囲は着実に広がり、ボットは事務所の業務を最もよく知る存在に育っていきます。

そしてこの運用を自社の手で回せることが、Difyのようなノーコードツールを選ぶ最大の意味です。

改善のたびに外部へ発注していては、スピードもコストも見合いません。「構築はプロと一緒に、運用は自分たちで」

この体制を最初から設計しておくことが、長く使われるAIチャットボットの条件です。

6. 無料相談

「うちの場合はどう進めればいい?」と思われた方へ


JAPANWAVEでは、本記事のような社内ナレッジ活用型AIチャットボットの構築を、資料整理の段階から伴走支援しています。「今ある資料でどこまで自動化できるか」を無料相談で診断していますので、お気軽にご相談ください。

この事例のサービス

Web・AI開発

サービス詳細を見る