【AI時代のプロダクト開発】第4回:コードを書く前に「売れる」を確信する ―― 作らずに検証する3つの手法

【AI時代のプロダクト開発】第4回:コードを書く前に「売れる」を確信する ―― 作らずに検証する3つの手法
前回は、検証における「合格ライン」の引き方について解説しました。「10倍の改善」や「ユーザーの熱狂」が見えるまで、本開発には進まない。これが鉄則です。
しかし、その「合格」を確かめるために、いきなりエンジニアが1ヶ月かけてシステムを組み上げるのは、あまりにリスクが高すぎます。
AI技術の進化スピードを考えれば、開発中に前提となる技術(モデル)がアップデートされ、作ったものが陳腐化する可能性すらあるからです。
第4回となる今回は、「作らずに検証する」ための具体的なアプローチと、今回のプロジェクトで私たちがなぜその手法を選んだのかを詳説します。
1. なぜ「作らない」ことが最強の戦略なのか
AIプロダクト開発における最大の敵は、ハルシネーション(嘘)でもコストでもなく、「誰も欲しがらないものを、完璧に作り上げてしまうこと」です。
コードを書き始めると、開発チームは「どう実装するか」という技術的な問いに没入してしまい、「本当にこれが必要か?」という本質的な問いを忘れがちになります。 (エンジニアあるあるです)
「作らずに検証する」目的は、開発リソースを 0円に抑えた状態で、ユーザーの「不便」が「お金を払ってでも解決したい痛み」であるかを冷徹に突き止めることにあります。
2. 代表的な3つの「作らない」検証手法
私たちが検討した、主な検証手法は以下の3つです。
① LP(ランディングページ)による需要テスト
製品が存在しない状態で、その機能や価値を説明する1ページのWebサイト(LP)を公開します。
- やり方: 「〇〇を解決するAIツール、先行予約受付中」といった内容のLPを作成。Google広告やSNS広告を少額(数万円程度)運用し、クリック率(CTR)やメールアドレスの登録率を計測します。
- メリット: 「市場にどれだけの数の見込み客がいるか」を定量的に測れる。
- デメリット: AIプロダクトの場合、実際の「触り心地(精度やスピード)」が価値の核心であるため、LPだけでは「継続利用されるか」までは判断しにくい。
② SNSによるコンセプト・テスト
X(旧Twitter)やLinkedInで、解決したい課題と解決策(AIの活用イメージ)を発信し、その反応を見ます。
- やり方: プロトタイプのデモ動画(モックアップを動かしただけのフェイク動画でも可)を投稿し、リポストや問い合わせの数を計測します。
- メリット: 拡散性が高く、予想外のセグメントから反応が得られることがある。
- デメリット: 反応が「目新しさ」に対するもの(バズ)なのか、実業務での「必要性」なのかの判別が難しい。
③ 深層ヒアリング
ターゲットとなる企業や個人に直接会いに行き、彼らが現在抱えている課題を徹底的に聞き出します。その上で、AIが行う予定の作業を、一時的に「人間(自分たち)」が裏側で代行して提供します。
- やり方: ユーザーからデータをもらい、人間がAIになりきって(あるいはChatGPTを駆使して手動で)回答を作成し、その成果物をユーザーに届ける。
- メリット: 「どの程度の精度なら満足するか」「どのタイミングでその機能が必要になるか」という、UXの核心に迫れる。
- デメリット: 手間がかかるため、検証できるサンプル数が限られる。
3. 最適な検証手法の選び方:なぜ「深層ヒアリング」が重要なのか
どの手法を選ぶべきかは、ターゲットとする市場やプロダクトの性質によって決まります。
特にB2Bや、複雑な業務フローを代替するAIプロダクトの場合、「ヒアリング 」が最も効果を発揮します。
手軽なLPやSNSでの検証以上に、深い検証が必要な理由は以下の2点に集約されます。
理由1:複雑な「業務フロー」への適合性を確認するため
企業の特定の業務を効率化するツールを狙う場合、単に「便利そう」という表面的な需要よりも、「既存の複雑な業務フローのどのステップに、AIが入り込む隙間があるか」を見極めることが重要です。
これは定量的なLPの数字だけでは決して見えてきません。
理由2:AIの「精度」に対する許容度を測るため
「AIが 80% の精度で回答案を作ってくれる」という提案に対し、ユーザーが「すごい!」と感動するか、「残り 20% を直すのが面倒だから自分でやったほうが早い」と断じるか。
この分岐点を探るには、実際にAIが生成した(あるいは人間がAIを装って作成した)回答をユーザーに見せ、その「手直しにかかる心理的・時間的コスト」を観察する必要があります。
4. 実践例:1週間の検証スプリントの流れ
実際に新しいアイデアを検証する際、以下のようなステップで進めることで、最短1週間で市場性を判断できます。
- ターゲットへのアポイント(1〜2日目): 課題を抱えているターゲット層に「AIツールの開発協力・ヒアリング」としてインタビューを依頼。
- 「魔法の杖」の提示(3〜4日目): インタビューの中で、「もし、今の作業をAIが即座に代行してくれるとしたら、業務はどう変わりますか?」と問いかけ、本質的なニーズを深掘りする。
- 手動プロトタイプの提供(5〜7日目): その場で実際のデータ(あるいはサンプル)を預かり、人間が手動で(ChatGPT等も活用しつつ)回答案を作成。翌日には「AIが作った体」で返却し、反応を確認する。
検証の結果得られる「確信」のサイン
このプロセスを通じて、ターゲットから「このクオリティなら、教育期間を大幅に短縮できる」「完成したらすぐに導入したい」といった、具体的なコスト削減や利益貢献に結びつくフィードバックが得られれば、それは「作るべき」という強力なサインです。
これにより、チーム全員の中で「面白いアイデア」が「勝てる確信」へと昇華されます。
まとめ:検証のスピードが、開発の質を決める
「LPを作って広告を回す」のは効率的に見えますが、AIプロダクトにおいては、「たった一人の熱狂的なユーザーの隣に座り、彼らの苦悩をAI(を装った人間)で解決してみせる」ことの方が、はるかに多くの示唆を与えてくれます。
「作らずに検証する」プロセスを飛ばして実装に入ると、必ずどこかで「これ、誰が使うんだっけ?」という迷いが生じます。その迷いを断ち切るために、まずは泥臭いヒアリングと手動での検証から始めるべきです。
※ 本記事の内容は、執筆時点での情報に基づいています。最新の情報と異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。 また、記載されている内容は一般的な情報提供を目的としており、特定の状況に対する専門的なアドバイスではありません。 ご利用にあたっては、必要に応じて専門家にご相談ください。